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暇な神の啓示

by 唐草 [2020/01/09]



 今朝、職場の自分のデスクを離れて別室での仕事に向かおうとしたときのことだった。部屋の電気を消そうとした瞬間に、声を聞いたような感覚に囚われた。部屋にはぼくしかいないので、誰かに声をかけられた訳ではない。なにより明確な言葉を耳にした感覚とは少し違っていた。それは直接頭の中に語りかけてくるような感覚で、音ではなく意味が直接脳に刻まれたかのようでもあった。
 これがいわゆる虫の知らせというやつなのだろう。
 ぼくの人生の中で、イヤな予感がしたり、勘が当たった経験は何度もある。それらは、もっとボヤッとした感覚だった。漠然とした不安に襲われるという表現よりもっとあやふやな感覚。雲の流れが早い日に一瞬だけ太陽が雲に隠れて暗くなるような些細な感覚だった。
 今朝の感覚は全然違った。信心深い人だったら神の啓示を受けたと思うほど明確で具体的な知らせだった。
 ぼくの脳内には、こう刻まれたのだ。
「いつも使ってるボールペンのインクが切れるから、もう1本黒ボールペンを持っていけ」
 驚くほど具体的で、同時に実践的な啓示である。世界中の神様たちが、みなこのぐらいハッキリと意思を示してくれれば世の中はもっと分かりやすくなるのではないか。そんなことさえ考えたくなるほどに明確な虫の知らせだった。
 ボールペンが1本増えたところで荷物にもならないので、ぼくは虫の知らせに従うことにした。
 それから30分後ぐらいのことだった。サラサラとしたペンの軽やかな動きで、ナメクジが這ったあとの方がまだ解読可能なぐらいの汚い文字でメモを書いていた。すると突然文字はかすれだし、数文字後にはペン先からなにも出なくなってしまった。いくら力強くペンを動かしても、紙に溝を刻むばかりだった。
 虫の知らせは大正解だった。
 何事もなかったかのようにもう1本のボールペンを手に取りメモを続けた。
 ぼくは、朝感じた囁きが現代科学では解明できない超常的な感覚だとは思っていない。仮に神がいるのならば、ぼくにこんなことを囁くより他にやるべきことは山積しているはずだ。それらの大事を放置してぼくのところに来る神など、こちらから願い下げだ。帰れ。
 きっとぼくは、だいぶ前からボールペンの不調の兆しを無意識のうちに感じ取っていたのだろう。でも、それがいったいどんなサインだったのか皆目見当がつかない。それが気持ち悪い。