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憧れのブレード

by 唐草 [2019/12/21]



 ぼくは十数年前からずっと自宅にサーバを設置している。クラウド時代の到来で目の前からコンピュータが消え始めている今でも、時流に逆らうように自宅サーバこだわっている。PCオタクの性としか言いようがない。
 ぼくの現実的な面は家庭にサーバを持ち込むために、価格や静音性、省エネ、大きさなどを第一に考えてきた。それで本当に満足できていたのかというとそうではない。PCオタクとして超ハイスペックなサーバへの憧れを捨て去ることはできなかった。ラックマウントサーバを使ってみたかったし、無駄だと知りつつもブレードサーバ導入を夢見ていた。これは車好きが狭い日本に住んでいながら超高級スポーツカーを欲するのと同じだ。
 十数年、少年のような憧れを胸に秘め続けられたのは、ぼくの才能だったのかもしれない。気がついたら、思い描いていた夢は叶っていた。
 今、ぼくは職場でサーバ管理をしている。いつでもラックマウントサーバやブレードサーバが詰まったサーバ室に出入りすることができる。自宅ではないけれどモンスターマシンに囲まれた生活をしている。誰からも夢が叶っているように見えるだろう。
 しかし、ぼくは昨日まで自分の夢が叶っていたことに気がついていなかった。なぜなら、ブレードサーバがあまりにも手ごわかったからだ。
 ぼくが面倒を見ていたブレードサーバはIBM System X。スペック的には普通のPCと同じだ。でも、前に立つと威圧感が違う。冷蔵庫サイズの大きな黒いラックは、ぼくを押しつぶしそうな圧迫感がある。掃除機をフルパワーで動かしているかのような冷却音は、攻撃的ですらある。部品交換はIBM頼りで自前で交換もできない仕様は、生まれの違いを感じさせた。ぼくに猛獣と対峙しているような畏怖を抱かせる存在だった。だから、ずっとブレードサーバのことを無意識に敵だと考えていたようだ。
 昨日、長年稼働してきたブレードサーバの電源を落とした。原因は保守切れで壊れた部品の交換できなくなったから。満身創痍でボロボロのまま1年間稼働を続けた耐久性は、IBMの名に恥じない活躍だった。
 緑色のLEDが輝きを失い、冷却ファンの轟音が収まったとき、ぼくは初めて憧れのハードを操っている自分に気がついた。牙を向く猛獣はもうどこにもいなかった。そこには少年心をくすぐる巨大な機械があるだけだった。
 手強い機械の管理という重圧から解き放たれて現実を直視しなくてよくなったそのとき、ようやくぼくは叶った夢の中に身を置いていることに気がつけたのである。