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地球に優しい昼食

by 唐草 [2019/12/13]



 ぼくの業務は時間の融通が利くので、昼食は遅めが多い。お腹と相談して時間を決めていると言うよりも、混雑を避けるために遅めにしている。だから、食堂に向かう時はいつも腹ペコだ。
 広い職場を対角線で横切るようにして食堂へと向かう道すがら、ぼくは何を食べようかと考えている。日替わり定食の献立を把握するほどの熱意は傾けていない。把握するまでもなく日替わり定食は、トンカツやチキンカツ、鶏唐にチキン南蛮といった具合にハイカロリーな揚げ物のことが多い。部屋を出たのが遅いので、日替わり定食はもう売り切れているかもしれない。だったら、ラーメンだろうか?いや、ラーメンも油が多そうだ。それなら、うどん、いや蕎麦にしたほうがいいかもしれない。蕎麦だと腹持ちが悪いので、やっぱりカレーだろうか?
 思いつく限りのメニューを頭の中の中華テーブルに載せてグルグルと回してみる。そして「揚げ物の食べ過ぎは良くない」とか「炭水化物を抑えたほうがいい」、「野菜も摂らないと」とか考える。これらの健康志向的発想は、本当にぼくの中から生まれたものなのだろうか?不摂生な大人だと思われたくないという世間体が生み出す発想ではないだろうか?健康とはかくあるべしという刷り込みが呪いのように思考を縛っているのようにも思える。意識が高い自分への憧れが、頭の中で囁いているような気もする。それとも、加齢により衰えた胃腸が発するSOS信号なのだろうか?
 毎日同じことを逡巡しているあいだに食堂へ着いた。
 ピークタイムはすでに過ぎていたが、日替わり定食はまだ残っていた。不人気のメニューだったのだろうか?それとも需要と供給が噛み合わなかったのだろうか?
 今日の日替わり定食は、トンカツだった。予想通りの揚げ物攻勢である。
 カレーに落ち着きつつあったぼくの気分だったが、客足が一段落して静けさを取り戻しつつある食堂にポツンと残っているトンカツを想像したら考えが変わってしまった。
 もし、ぼくがトンカツをトンカツを頼まなかったら、すでに揚げられてしまったカツは廃棄になってしまうかもしれない。これは小さいことかもしれないがフードロスだ。大切な命から頂いたお肉も、調理に費やしたエネルギーも、そして食堂の方々の献身的な働きもみんな無駄になってしまう。それはあまりにも悲しい。豚の泣き声が聞こえてきそうだ。
 地球のためにトンカツを食べるのが、今日のぼくの使命に違いない。脳内でこうつぶやきながらトンカツをオーダーした。
 これは身の丈のエコ活動か?それとも連日の揚げ物摂取への言い訳か?ぼくは答を知っている。