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by 唐草 [2019/10/13]



 昨晩は、年に数度しかない気圧計が大活躍する晩だった。
 我が家には、真鍮製でスチームパンクを連想させるデザインの気圧計がある。普段は、リビングのインテリアとしての役割を担っているオシャレな気圧計。都市での日常生活に気圧を知る必要などない。今の天気予報の精度なら気圧変化が起こる前に天候の変化を知ることができる。温度計と湿度計は、熱中症への警戒として見直されてきている。一方、気圧計はどんどん影が薄くなっている。
 気圧計は、台風の北上に合わせるように部屋の隅から中央に移動してきた。この気圧計は、見た目がレトロ風なだけでなく、測定方法も古風な機械式を採用している。値の表示も金属板に刻まれた数字を針が指すという昔ながらのスタイルだ。だから、絶対的な精度は期待できない。晴れの日に1010hPaぐらいを指しているので、実際の値より10hPaぐらい大きな値を示しているのだろう。それでも、相対的な気圧変化を知るには十分な性能がある。
 台風が近づくのに合わせて、見ていても分からないほどゆっくりとした動きで針は動いてた。時間を追うごとに小さな値を指していった。気圧計の観察は、我が家の台風の晩の過ごし方である。これまでの観察経験から学んだことがある。990hPaを切ると、いよいよ台風の暴風圏に突入するのである。
 今回も990Pha台に突入し始めたころから雨風が叩きつけるようになっていた。でも、天気予報を見ると台風本体はまだ上陸していなかった。洋上の推定気圧は、945hPaと告げられていた。いったい、こんなに強力な台風が上陸したらどうなってしまうのだろうか?固唾を呑みながら気圧計の針の動きを見つめていた。
 その後もどんどん気圧は下がっていった。980hPaまで下がったがまだ台風は洋上。上陸の知らせを聞いたころ針は、目盛りの最低値である970hPaを指していた。これが測定限界なのだろうか?上陸後の勢力は衰える一方で、これより気圧が下がることはないかもしれない。針が動こうが、動かなかろうが、これより小さな値は見られないだろうと考えた。
 そんなぼくの見込みは、甘かった。
 気圧はさらに下がっていき、針は目盛りの無い位置までやってきた。針は、推定で965hPaを指していた。下がっていくさまを見ていたのだが、目の前の光景に目を丸くしてしまった。気圧計の針が降り切れるほどの強烈な台風に飲み込まれていること。そして、目盛りのない領域まで針を動かすことのできる気圧計の性能。ぼくは、どちらに驚いているのか自分でもよく分からなくなっていた。