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どこから外れた?

by 唐草 [2019/10/04]



 我が家の階段は、たまの訪問者が恐怖を抱くほどに急だ。それは目の錯覚ではない。昔、誤って掃除機を階段の上から落としてしまったことがあるのだが、急傾斜を転がり落ちた掃除機はまるでギャグマンガのように壁を突き破った。この階段の傾斜は、落下物に働く重力加速度を遮ることのない角度なのである。万が一にも足を踏み外したら、首の骨を折っても不思議はない。我が家の毎日は、死と隣り合わせなのかもしれない。
 そんな階段に物が転がり落ちると、掃除機のような重量物でなくても止まることなく1階まで落ちていくのが我が家の日常だ。だが、今日は違っていた。階段の上から2段目に、黒く輝く米粒のような小さな何かが落ちていた。一瞬、蟻かと思うような色と形だった。
 得体の知れぬ小さな落下物の正体を見極めようと、ぼくは黒い何かに顔を近づけてみた。それは、小さなネジだった。ちょうどメガネのネジぐらいの大きさだ。マイナスのネジ穴はキレイな垂直を描いていた。この加工の精密さもメガネのネジを思わせる。だが、サングラスを含めたすべてのメガネのネジは、本来あるべきネジ穴に固く収まって役割を全うしていた。
 メガネ用のネジでないとしたら、このネジの正体はますます分からなくなる。いったい何を留めるためにどんなネジ穴に収まっていたのだろうか?どこか離れた部屋で外れたネジが階段まで転がってくるのも不思議だし、なにより先に書いた通り急な階段の上から2段目に留まっていたのも腑に落ちない。まるでキノコのように階段から自然にネジが生えてきたかのようである。
 ネジの正体と出所についてあれこれ考えているうちに、デジャヴに近い既視感に襲われた。前にもこんなことがあったような気がする。今回と同じように屋内で出所不明の小さなネジを拾って、正体が分かるまで保管した気がする。その後、正体が分からず仕舞いで収まるべきところに収まらなかったネジが、なにかの拍子に再び野に放たれてしまったのだろうか?このネジは旅するネジなのかもしれない。
 その記憶がいつのものなのかを確認しようと、この日記のログを検索してみた。しかし、ぼくが思い描いたような話題はひとつも見つからなかった。じゃあ、この既視感はどこから湧いたんだ?ひょっとして、あのネジはぼくの頭から外れたものなのだろうか?