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11周年祭

by 唐草 [2019/09/26]



 衝撃的な事実とは、思いもよらぬ場所やタイミングでやってくる。そのせいで判明した事実よりも情報に急襲されたことに衝撃を受けたのかと思い違いをしてしまう。
 電車の中吊り広告を眺めていたらビビッドなレモンイエローの背景の上に大きく黒で描かれた「11周年祭」の文字が目に飛び込んできた。警戒色を思わせるような黄色と黒の組み合わせに目を吸い寄せられたぼくは、広告の子細に目を走らせてた。イオンレイクタウン開業11周年の広告だった。
 そこに描かれた文字を見て、ぼくは腰を抜かすほど驚いた。
 大型ショッピングモール開業に合わせてJR武蔵野線に越谷レイクタウン駅とかいう口に出すのも恥ずかしい駅が誕生したのを先日のことのように覚えている。未だに駅名を見ると背中がむず痒くなるような恥ずかしさを覚えるが、もう11年になるのか。11年経ってもさっぱり馴染まないことを考えると、きっと高輪ゲートウェイ駅が開業するまで恥ずかしい駅名日本一の座を明け渡すことは無いだろう。
 ぼくが驚いたのは11年の経過ではない。久しぶりにあった親戚のおばさんと会話するときのような話題で腰を抜かすほど驚きはしない。
 ぼくが驚いたのは、11周年祭の「祭」の字体である。
 「祭」の字の右上の「又」みたいな部分の字形が、ぼくの知っている字と異なっていた。これはイベントロゴ用に字形を変形させた影響なのだろうか?そう考えて漢字を凝視してみたが、アラビア数字で書かれた11以外の部分は、ノーマルな字体だった。インパクトのある張り出した印象の強い太めの字体だが、歪ませたり不自然に伸ばしたりするような変形はない。
 それなのになんで「祭」の字の右上の「又」的な部分だけが、特殊なのだろう?
 少し話が変わるが、ある朝目覚めて太陽が西から昇っていたらどう思うだろう?世界の常識がからりと変わっていて、自分に誰も同意してくれなかったらどう思うだろう?ある人は、自分の正しさを熱弁するだろう。例えその結果、周囲から狂人のように思われても信念を曲げない人だっているに違いない。
 でも、少なくともぼくは違う。一夜にして世界がガラリと変わるより、寝ている間にぼくの脳回路が壊れるほうが確率的に起こり得ると考える。ようするに、自分が間違っているだけだと考えるのである。このぼくには、譲れない主義主張も無ければ、貫き通す信念もない。
 だから、祭の字も同じように考えた。ぼくが間違って覚えていたのだ。スマホで漢字変換しても中吊り広告に書かれたのと同じ字が出てくる。ぼくは四半世紀以上「祭」の字の右上は「又」だと思い込みをしていたのだ。これはぼくにとって衝撃的な事実だが、世界がひっくり返るよりは遥かに起こり得る事実である。