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誤診

by 唐草 [2019/07/10]



 今朝、職場に着いて最初にしたことは、鼻をかむためにティッシュへ手を伸ばしたことだった。ぼくの鼻の穴からはサラサラの鼻水が、閉め損ねた蛇口から滴る水のように垂れていた。
 花粉症ではないけれど慢性的な鼻炎を抱えているぼくは、自分の鼻水の具合から正確に体調を知ることができる。こういうサラサラの鼻水が垂れるときは、体の冷えが原因である。もっとも体の冷えは鼻水からでなく、自身の感じている寒さからよく理解していた。
 7月に寒さを感じる理由なんて、濡れた体のまま裸でクーラーの効いた部屋に飛び込む以外には、もう1つしか考えられない。本当は寒くもなんともないのに体が寒いと感じてしまう。要するに悪寒であり、風邪をひいた証拠以外のなにものでもないだろう。
 残念なことに風邪をひく要因はいくつも考えられる。まず、先週からずっと忙しい状況が続いていること。そして、何よりも可能性が高いのは、昨晩が冷え込んだことである。生まれ持っての寝相の悪さが災いして昨晩は寒かったにも関わらず、布団をしっかり掛けずに寝てしまったのだ。朝から体の芯が、冷蔵庫から出したての水のように冷えているのを感じていた。
 職場では、季節外れのジャケットを羽織ったまま白湯をすすって体を温めようと努めていた。でも、ぼくが感じる寒さは一向に収まらなかった。運悪く今日は、午後からプチ出張と呼びたくなるほどの遠方で打ち合わせの予定があった。こんな風邪ひきの体で片道2時間オーバーの移動は危険かもしれない。迷惑をかけるのは重々承知しているが、休まざるを得ない。そんな弱気なことを考え始めていた。
 ぼくのかいがいしい努力もむなしく、寒さを払うことはできないままだった。季節外れの寒さが、なにもかもを狂わせていく。もう、今すぐ帰ってベッドでおとなしくしていたい。
 ふと、スマホの温度計アプリが目に入った。そこには、目を疑うような数字が表示されていた。少なくとも7月の気温だと思えない小さな数字が表示されていた。体が冷えて風邪気味だから7月の気温を寒く感じているのではなくて、本当に寒いというゆるぎない証拠が数字で示されいた。
 その数字を見て安堵した。どうやらぼくは健康体のようである。鼻水による健康判断は完全な誤診だったようだ。その事実を理解すると急に体の芯が熱を取り戻し始めた。病は気からといのを身をもって理解できた瞬間だった。
 とは言え、寒いのは事実である。体調管理には気を付けないとなぁ。