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May I help you?

by 唐草 [2019/06/08]



 駅の壁を賑やかに彩る様々なポスター。ひとつひとつのポスターに目を向けることなんてあまりない。人の波に流されるラッシュアワーならなおさらだ。毎日利用する駅のポスターなんて、もはや趣味の悪い壁紙と同じ。賑やかな色が壁面を覆っているに過ぎない。
 昨日、帰りの電車が遅れていた。そのせいで帰宅時間帯の上りホームは、電車に乗り切れそうにないほどの人々が溜まっていて、歩くのも難しいほどに込み合っていた。ぼくも思うように歩けず、エスカレーターへと向かう人々の列に飲み込まれてた。ぼくの周りにいる大勢の顔は、仕事の疲れと電車が遅れている不満で曇っていた。きっとぼくもそんな顔をした一人だっただろう。疲れた顔を見ていても楽しくもない。
 ぼくは何か目を楽しませてくれるものはないかと考えながら、群衆から目をそらして普段だったら見向きもしない壁の方へ目を向けた。壁には様々なポスターが掲げられていた。スマホを取り出すこともできない牛歩な混雑の中なので、普段だったら鬱陶しく思うであろう賑々しいポスターさえも楽しく見えた。
 鉄道の駅なので旅行関連のポスターが多かった。マナー向上を啓蒙するポスターも少なくなかった。
 1枚のポスターが目に留まった。「困っている外国人がいたら"May I help you?"と声をかけてあげましょう」というマナー向上系のポスターである。このポスターを見てぼくは、混雑でイライラしていたせいもあるが不愉快な気分になってしまった。
 なにも英語圏の人だけを優遇しいるようだと怒っているわけではない。無責任すぎないかと怒っているのだ。
 ぼくだって、困った欧米人がいれば"May I help you?"と声をかけることはできる。でも、そこから先が続かないのだ。中学2年生に負けるであろうぼくの英語力では、ネイティブに対応することはできない。考えてみてほしい、あなたが見知らぬ国を訪れて困っているときに日本語で「お困りですか?」と声を掛けられ救いの神に出会った喜びを。しかしその喜びは一切の日本語が通じないという現実に直面して、絶望に変わるのだ。一瞬期待させてから、叩きのめされるのである。これならいっそのこと無視された方が楽なぐらいだ。
 悲しいことにぼく程度の英語力だと助ける素振りを見せて手を離すという残酷な行為にしかつながらない。無能なくせに成果を出そうとして周りを困惑させる典型である。だから、ぼくに"May I help you?"と言えと無責任に押し付けてくるポスターが許せなかったのである。もっとも、自分の英語力の低さを棚に上げているだけなのだが。