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歯ぎしりを止めろ

by 唐草 [2019/05/29]



 歯痛の原因が虫歯ではないとのお墨付きをもらえたのは、心配性なぼくにとって大きな収穫である。歯医者へ行く前と今とを比べても、歯の状況にさしたる変化はない。相変わらずなんのきっかけもなく歯の付け根にピリピリと微弱な電流が流れて歯が膨らんだかのような痛みが走る。痛みの原因を知り、この痛みが激痛へのカウントダウンでないと理解した今、ぼくになんの恐れもない。
 歯医者が言うに、この痛みの原因は度重なる歯ぎしりが原因だそうだ。なんでも、ぼくは自分の歯が摩耗するレベルで歯ぎしりを繰り返しているらしい。どうしてもその説明を信じられない。歯ぎしりをしている自覚がぼくにはまったくないからだ。
 目覚めた直後に歯が痛いことがある。だから、間違いなく寝ている間にギリギリと歯ぎしりを繰り返しているのだろう。こればっかりは自力ではどうしようもない。マウスピースを咥えて寝るというのが、数少ない対処療法らしい。ぼくの歯ぎしりパワーだとマウスピースを噛みちぎりそうである。
 寝ている間の対処が無理だとしても、起きている間の負荷を減らすことで改善へと向かうことができるかもしれない。とは言え、起きているときもいつ歯ぎしりをしているのか、まったく見当もついていなかった。だから、この1週間ずっと顎と歯に注視しながら生活を続けてきた。
 その結果、いろいろな問題が明らかになってきた。
 まず、仕事をしている時。うまくいかないと必ずと言っていいほど頬杖をついている。それも痛みが大き左側。これは、間違いなく片方の顎に大きな負荷をかけてしまっている。次にゲームで遊んでいるとき。ボス戦など難易度の高い場面で、ぐっと奥歯を食いしばって集中している自分がいた。まるで、ゲーム内のキャラクターが受けているであろう痛みを堪えているかのようであった。そして最後は、屋外でスマホをいじっている時。ネタ画像やネコ画像を見た際に表情が緩まないようにと考えているのか、歯を食いしばって表情を殺していた。もしかしたら、眉間にシワさえよっているかもしれない。
 精緻な自己観察の結果、どんな場面で歯への負荷が高いのかが見えてきた。そのいずれも無意識下での行動だった。とてもじゃないけれど、意識的にこれらの行動を止めることなんて無理そうである。ゲームを止めて、スマホをしまえばいいじゃないかという意見が聞こえてきそうだが、それはぼくにコーヒーを止めてアイスを食うなと言っているのと同じである。楽しみのない人生は、歯痛以下の価値しか無い。