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650S?

by 唐草 [2019/05/09]



 朝から目を覚ますような光景に出くわした。別にショッキングな出来事に巻き込まれた訳ではない。喜びと興奮のあまり目が覚めたのである。
 出勤しようといつものように駅まで自転車で向かっていた。朝の幹線道路の流れは渋滞気味で自転車の方が速いほどだ。前を見ると大きなトラックが路駐していた。歩道に上がれる場所ではなかったので、車の流れを確認してノロノロ動く車列に割り込もうと振り替えったときだった。
 ぼくの視界に黒い不自然な空間が飛び込んできた。反対車線に広がるそれは、さながら巨大な盲点のような存在だった。道は渋滞しているというのに車1台分程の黒いなにも無いスペースが広がっていた。一瞬のことだったが、まるで目の前にブラックホールが広がったような奇妙な感覚に襲われた。
 もちろん暗黒空間がそこに広がっていたというようなオカルトな話ではない。ぼくの目の前に現れた黒い塊は、低く薄い流線型の車だった。
 車だと理解した瞬間にぼくの頭の中では、猛烈な勢いで検索が始まった。いったいなんなんだ、この薄い小ぶりな車は?普通のセダン車のボンネットぐらいの高さしかないように見える驚異の薄さである。流線型のスポーツカーといえばフェラーリが思い浮かぶが、フェラーリのような無駄に横幅が広い感じはしない。もっとコンパクトな印象だし、見た目の華やかさを追求したような車体ではなく、流体力学などの科学が作り上げた無駄のないフォルムに見えた。
 ぼくが、いままでに実際に見たことのあるどの車とも合致しない。このままずっと凝視していたいと思うほどに主張のある車だったが、車列の流れに乗っているぼくにその余裕はなかった。黒い塊は、無常にもぼくの視界から消えていった。
 でも、視界から消える最後の瞬間に確かにぼくは見た。車体後方のエキゾーストパイプの上に輝く半月型の小さなエンブレムを。
 マクラーレンだ。F1の名門チームであるマクラーレンが、世に送り出したスーパーカーだった。多摩の田舎にマクラーレンが走っているのかよ。というか、日本にあるのかよ。あんな車、アラブの富豪しか持ていないかと思っていた。
 フロントを十分に確認できなかった上に、黒なので車体の凹凸がよく分からなかった。これでは正確な車種は分からない。ただ、リアのデザインから推測すると650Sのように見えた。と言っても、ぼくが自力で判断したわけじゃなくて、ググって確認しただけなんだけれども。
 朝から良いものを見られたと大興奮のぼくである。ただ、渋滞のせいでパワフルなエンジンの力強いエキゾーストノートを聞くことができなかったのが残念でならない。