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見えないのに既視感

by 唐草 [2019/04/12]



 数日前に正式発表されたブラックホール観測成功のニュースは、大いに世間を驚かせた。光すら吸い込み絶対に目視できないものを観測できたという矛盾していそうな発表にはロマンを感じてしまう。また、世界中の電波望遠鏡連動させて巨大望遠鏡として観測をするというのは完全にSFの世界の話にしか聞こえない。ぼくもなんかすごそうだと思っているが、実際のところそこまで驚けていない。
 驚けていないのには、2つの理由がある。
 まず第一に、どのぐらいすごいのかがよく分かっていないからだ。きっと天文学史の1ページを飾るどころか、新たな時代の幕開けを告げるビッグイベントだったのだろう。でも、ぼくは最新の天文学のことなんてさっぱり分かっていない。だから、専門家にとって今回の発表がどの程度のインパクトがあるのか想像することすらできない。よくネットで自分の分からないことがあると「ドラゴンボールで例えてくれ」とか「プロ野球で例えてくれ」という大喜利まがいのネタを振る人がいる。今のぼくは、そんな大喜利を必要としている。誰かぼくに今回の凄さをドラクエで例えてくれないだろうか。
 驚けない理由はもうひとつある。2つ目の理由こそ驚けない主たる原因だ。それは公開されたボケボケのブラックホールの画像に強い既視感を感じたからだ。夕日を浴びたドーナッツのピンボケ写真にしか見えないあの画像をどこかで見たことがある。どこで見たんだっけかな?
 こめかみに親指を当てて目をつぶってじっくり記憶を紐解いていった。ボケボケだった画像の輪郭が、カメラのピントをゆっくり合わせるように次第にスッキリとしていく。
 分かった!映画で見たんだ。映画『インターステラー』のブラックホールだ。あの映画で描かれたブラックホールはNASAの専門家の協力を受けて緻密にシミュレートしたCG映像だと聞いた。そのシミュレートがほぼ正しかったことが、今回の発表で証明されたわけだ。
 あまりにも正確過ぎるシミュレートを先に見てしまっていたせいで、本物の画像を見たときの新鮮な驚きが薄れてしまったのだろう。特にどちらもオレンジ色で表したのが良くなかったと思う。今回発表された画像を着彩処理した人は、映画のイメージに引っ張られすぎているのではないだろうか。ぼくが着彩担当の科学者だったら、もっと冷たい水色系の色にしていただろう。
 イベント・ホライズンの向こうは観察不可能なので中央部はドーナッツのように空洞に見える。理屈では分かっていたが、本物はもっと驚きに満ちた見た目をしていると心の何処かで期待していたのかもしれない。きっと数年後には、もっと鮮明な画像が撮影されることだろう。ぼくはその画像を見たら「フレンチクルーラーとオールドファッションのどちらがブラックホールに近いのだろう」とかどうでもいいことを考えているに違いない。