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餃子戦争

by 唐草 [2019/04/07]



 店が成功するかどうかは、実際にオープンしてからでないと分からない。おいしい料理を手ごろな価格で出す店でも立地が悪ければ苦戦するだろうし、立地が良くても肝心なサービスがダメでは元も子もない。最寄り駅の商店街は、平成が終わろうとしている今日でさえ昭和の影が残っている場所もある。景観条例とかで古い店を保護しているわけではない。新しいビルもどんどん建っている。そんな変化がやってこようとも、実力のある店は流れにのまれることなく経営を続けている。だからクロスワードの黒いマスのように不規則に昭和な面影を残す店が点在しているのである。
 良く言えばレトロ、悪く言えば古臭い店のひとつに中華料理店がある。中華料理店と言っても本場の雰囲気は皆無だ。赤い装飾も金色の文字も竜の意匠もない。カウンター席で手酌でビールを飲みながら餃子をつつくオッサンが似合う日本風の中華料理店である。地味で古臭い中華料理店だが、再開発の波にのまれることなく細々と営業を続けている。きっと味が良いので昔からの常連客に支えられているのだろう。
 そんな街の古豪というべき中華料理店の横に新しい店が数か月前に開店した。
 その立地は比較的回転の速い場所。これまでに数多くの店がオープンを告げる花を飾るが、花が枯れるのと同時に店をたたむぐらいに出入りが激しかった。そんな激戦区に名乗りを上げたのは、なんと中華料理店だった。古参の中華料理店の隣に新しい中華料理店ができたのだ。
 なんと大胆な出店計画。完全に元からある店に喧嘩を売っているとしか思えない。新しい店は中国家庭料理という看板を掲げている。店のつくりはテーブル席で内装も明るい感じ。窓には紹興酒と思われるビンが飾られているし、中国らしい赤いタペストリーも掛けられている。
 昭和テイストの残る日本風大衆中華料理と今っぽい本場中国料理の仁義なき戦いが、小さな商店街の一角で始まってしまったのだ。
 新しい店はどんな経営戦略を掲げているのだろうか?本場の魅力で隣の店から客を奪うつもりなのか?それとも古くからある方の店は狭いので、満席で入れなかった客を取り込もうとしているのか?
 店ができてから数か月経つが、新しい方の店に客が入っているのはほとんど見たことがない。それどころか、店員が店番している姿すら見たことがない。新しい中国家庭料理の店は、見るも無残に惨敗をしているようにしか見えない。店をたたむ日も近いだろう。
 そう思っていた先日、あるものが目に入った。古い店の一番の売りと思われる餃子半額の看板が、新しい店の前に立っていた。同じ価格の同じサービスを始めたのか?いや、そうじゃない。手書きの看板が物理的に移動しているのだ。
 客を奪えないから看板を奪ったのか?ぼくは呆れて天を仰いだ。その時、思いもよらぬものが目に飛び込んできた。
 それぞれの店の入り口の上に掲げられた店名だ。なんとどちらの店にも同じ文字が掲げられていた。
 えー、この2店同じ店だったの!?
 よかった。この平和の商店街で骨肉の中華料理戦争なんて起きてなかったんだ。みんな幸せそうに餃子を食べているだけだったんだ。