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よく知る知らない人

by 唐草 [2019/03/11]



 毎日、何百万人もの人々が鉄道を利用している。鉄道を利用する理由は、毎日の通勤・通学から特別な旅まで様々だ。目的の多様性と利用人数、そして過密なダイヤを掛け合わせて考えてみると、誰もが一期一会な関係のように見える。
 本当にそうだろうか?
 通勤・通学時に電車の中を見渡すと名前は知らないけれど見知った人々が多くいるだろう。奇妙なことだが、隣人よりも多く顔を見たことのある人が電車の中にいるはずだ。理由は、考えるまでもなく簡単。だって、ぼくも彼らも毎日規則正しく同じ時刻に同じ駅を出発する同じ列車の同じ車両に乗っているのだから。
 ぼくの通勤時間はまちまちだが、水曜日と木曜日だけは決まって朝が早い。だから、その日の車内のメンバーは何となく見知っている。ぼくが乗るとき乗車口のところには私服の中学生4人組がいる。毎朝、楽しそうにスマホゲームで盛り上がっている。学生と言えば、去年まで高校生2人組がいた。バイトの話に花を咲かせることもあれば、黙々とゲームに興じていることもあった。きっと今は、高校を卒業してそれぞれの道を進んでいることだろう。
 また、いつも決まった席に座っている丸眼鏡のおばさんがいる。このおばさんは途中駅で降りるので、彼女の前に立てれば道中の半分を座っていくことが可能だ。だから、密かにおばさんの前で場所取りが起きている。きっと、そんなこと丸眼鏡おばさんは、露と知らないだろう。一方で、電車内で飲み食いしているために悪目立ちしている人もいる。一方的に書いてきたが、きっと彼らも週に2回しか現れないぼくのことを様々な感想とともに記憶していることだろう。
 名前も知らないし、どこから乗ってどこまで行くのかも分からない人さえもいる。でも、毎朝顔を合わせるという不思議な関係こそが、通勤のありふれた光景なのだろう。
 ぼくの場合、帰宅時間はその日によって大きく異なる。だから、顔を見知っているのは朝のメンバーだけ。きっと朝の電車の中以外で顔を合わせても、お互いに気が付くことすらないのだろう。
 そう思っていたのだったが、そんなことはなかった。
 なんと帰りの電車の中で、朝会う人が目の前に座っていた。その人を朝に見かけるようになって3年ぐらい経っているが、帰りに見たのは初めてである。こんな偶然ってあるものなのか。ぼくは驚きが隠せなかったが、相手はぼくに気がついていないようだった。
 しばらくして冷静さを取り戻したら別の考え方に気がついた。朝に同じ電車の同じ乗車口を選ぶという似た価値観の持ち主だから、時刻さえ重なれば同じ電車の同じ乗車位置を選んでも不思議はない。だとすれば、この出会いは起こるべくして起きた必然だったのだろうか?