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伝統と継承

by 唐草 [2018/08/28]



 10m以上ある長いケーブルを収納するときにどのようにまとめるだろうか?多くの人がクルクルと輪っかを作りながら巻いていくだろう。でも、これは良くない方法だ。少なくとも電気を通すケーブルの巻き方としてはNGとされている。NGなのには理由がある。ただ単に巻いていくだけだと、解いたときに絡まってしまう可能性が高いからだ。
 ケーブルを絡まないように巻くためには、通称「8の字巻」と呼ばれるちょっと癖のある巻き方が理想的だと言われている。8の字巻で巻いたケーブルは、床に放り投げると絡まることなく自然にほぐれやすい。普段ケーブル類を扱うことが多い人々にとって必須の技能となっている。
 とは言え、8の字巻を目にする機会なんて滅多にないだろう。8の字巻に親しみのある人は、大抵の場合2通りに分類できる。まず1つは、バンドなどの音楽活動をしている人。アンプへつなぐケーブルやマイクのケーブルを巻く際に8の字巻が必須になるからだ。もう1つは、ネットワーク設置に携わる人。ときに50mぐらいにまでなるLANケーブルを巻く際に8の字巻の技術が必要となる。
 ぼくは大学時代に8の字巻を教わった。バンド活動を通してではない。当然、先に上げた後者の方である。ネットワークインフラの設置の1技能として8の字巻を体得させられたのだ。
 あれは、大学4年の夏休み。大学で開口されていた社会人向けのネットワークの授業に手伝いとして参加していたときのことだ。実験のため長いLANケーブルを何本もつないで、無駄に複雑なネットワークを構築していた。ぼくのような下っ端の手伝いが活躍するのは、授業が終わってからの片付けの場面である。何十本ものケーブルを巻いていく雑務を割り振られた。そのときに、先生から必須技能として8の字巻を教わったのだ。
 はじめのうちは全然巻き方がわからなかった。手慣れた人がやる手元でくるっとケーブルの向きを変える動きを見切れず大いに苦戦した。今でも素直に8の字型にケーブルを束ねてから2つ折りにするという一番素人っぽいやり方のじゃないとうまくいかない。見た目はかっこよくないかもしれないが、8の字に巻ければそれでいいのだと胸を張っている。
 今日は、大学で数人の学生を動員してネットワークの敷設作業を行っていた。後片付けの段階で学生たちが余ったLANケーブルを収納しようとして巻き始めた。何も言われずとも8の字巻きをしている学生もいたし、そうではなくゲームのコントローラーのケーブルを巻くようにクルクルと巻いているだけの学生もいた。
 そこで、すかさず8の字巻きを伝授することにした。巻いたケーブルを解かせて、その効果も理解させた。
 はるか昔ぼくが学生時代の夏休みのバイトのときに習得した技を、夏休みを大学でのバイトに勤しむ今の学生へと伝えることができた。伝統技能は無事に後世へと伝承されたのである。ぼくの役目は、もう全て終わった。そんな満足感に包まれたひとときであった。