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変え時が分からない

by 唐草 [2018/08/20]



 どんなに丁寧に使っていても、ものはゆっくりと劣化していく。その変化を自覚するのはとても難しい。
 昨日まで問題なく使えていたものが、急に壊れてしまうこともある。でも、これはHP100だったものが、一夜でHP0になったわけではない。いきなり痛恨の一撃を食らったわけではなく、毎日少しずつダメージを重ねていった結果である。HP100とHP1は、誰の目から見ても全然違う別物だろう。でも、HP100とHP99の違いを見分けられるだろうか?きっと無理。同じようにHP99とHP98の見分けもつかないだろう。帰納的に考えていくとHP2とHP1の違いだって分からないはずである。だから、HP1がHPになったときに急に壊れたように感じてしまうのだろう。
 表現力が乏しい故のゲーム的な例えで申し訳ないが、ぼくの言わんとする事は理解してもらえただろうか?
 ぼくの身の回りにも気が付かずに劣化しているものは山のようにある。その中でも、特にぼくを悩ませているものがある。それが、T字ヒゲ剃りである。
 T字ヒゲ剃の出番は、週に数度ある。なかなか活躍の機会の多い日用品。
 ヒゲ剃りの刃の劣化を目視することは、まず不可能である。剃っているうちに小さくい薄い刃がミクロレベルで刃こぼれしていく。多少剃りにくかったとしても、刃の当たる角度が悪いこともあるし、たまたまいつもより太いヒゲが生えていただけかもしれない。ヒゲが剃れなくなるわけではない。
 そうこうしているうちに、どんどん剃れなくなっていく。でも、ぼくはそれを自覚できない。
 いつだって刃が傷んでいることに気がつくのは、血を流してからである。剃れないヒゲ剃りで深剃りをしようとして、頬や顎を切るのである。そのヒリヒリとした尖った痛みを感じ、そしてかき氷のイチゴのようにピンク色に染まったシェービングクリームを目にしてようやく気がつくのである。
 新しいヒゲ剃りで剃ると、その違いに驚かされる。HP0からHP100への急激な回復である。いままで使っていた刃は、まるでノコギリのように思えてくる。新しいヒゲ剃りで剃った頬は、子供の肌のようにツルツルになるのである。こんな劇的な変化があるのならば、さっさと交換しておけばよかったといつも後悔するのだ。
 せめてHP10ぐらいのときに劣化に気がつけるようになりたい。そうすれば無駄な血を流さずに済むのに…。