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レモンを喰らう

by 唐草 [2017/12/30]



 昨日食事をしたメンツは、いつものグルメ食べ歩き仲間。かれこれ3年ぐらいの付き合いがあるはずだ。とは言え、お互いの本名は知らない。
 名前も知らない人と食事をともにすると書くとなんとも奇異な関係に見えるかもしれない。でも、実際のところなんの不自由もない。社会的な接点が無い分、お互い気軽に付き合えているとぼくは感じている。
 お互いの名前は知らないが、食べ物の好みは大いに知っている。でないと、様々な店を食べ歩くことはできない。ぼくは、小食だがほとんど好き嫌いが無い何でも食える人として認識されている。概ね間違いない認識だ。実はカリフラワーが苦手だが、出されても隣の皿に除けるほど苦手なわけではない。食べる瞬間笑顔が消えているかもしれないが、周囲の人にカリフラワーが苦手なことはばれていないようだ。
 その一方で、柑橘類が大好きだということは広く知られている。唐揚げなどについてくるレモンが、ぼくの前に並べられることも珍しくない。そう、ぼくは唐揚げにレモンをかける派とかけない派が無意味な論争を繰り広げているさなか、レモンをそのまま食べてしまうというトリックプレイで論争を休戦へと持ち込む平和の使者なのである。
 昨日の食べた料理の中にもレモンが添えられているものがあった。唐揚げではない。ちょっとオシャレな雰囲気のイタリアン風の店に無骨な唐揚げは似合わないのだろう。レモンが添えられていたのは、肉の串焼きだった。2切れのレモンが添えられていたので、1個はぼくの前にやってきた。串焼きの肉は塩で食べ、レモンはそのままオレンジか何かを食べるように丸かじりで頂いた。さすがちょっといいお店のレモンだ。おいしい。学食で添えられている刺すような酸味だけのレモンとは全然違う。酸味はもちろんあるが、その奥にしっかりとした甘さがある。甘さがあるので酸味がマイルドに感じられる。そして、レモンの苦さもちゃんとある。ミカンの皮をかじってしまったような苦さとは違う、舌の上からスッと消えるような軽やかな苦さである。当然のことながら、香りは強い。
 酸っぱそうな顔をせずレモンを堪能していると、決まって美味しいかどうかを聞かれる。上に書いたようなことを説明して「このレモンだったら1玉食べられる」とさえ言い切った。やせ我慢ではなく、事実である。
 それを聞いた1人が、もう一切れのレモンを食べてみると名乗りを上げた。だが、レモンの端を一囓りしただけでギブアップしていた。
 そうか、普通に人にとってレモンはかくも強烈な食べ物なのか。改めて世間一般の基準を思い知らされることとなった。