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三度目の肉焼き

by 唐草 [2017/12/25]



 どうしても店が流行らない立地というのがあるらしい。坂の途中にある店なんていうのもそのひとつだそうだ。飲食店経営は、味の善し悪しだけで決まるわけではないのだ。
 ぼくも何カ所か飲食店が流行らない場所というのを知ってる。そのひとつが、最寄り駅から駐輪場へ歩いていく途中にあるT字路。マッサージ店と郵便局に挟まれた間口の狭い店だ。駅からの距離は200mぐらい。大学生の多い町ではあるが、駐輪場方面は大学とは逆方向なのでいつも閑散としている。マッサージ店も郵便局も閉まるのが早いので、飲食店が活気づく時間には明かりが消えてしまっている。ここに店を構えた飲食店は、1年持たずにつぶれていく。
 ぼくが2年ぐらい前にこの場所に気が付いたのにはきっかけがある。焼き肉屋が新装開店したときのことだ。その店は、卓上ロースターで使用する炭を店の前で焼いていた。炭の燃える明るさと熱気が、店の前を疲れた顔で歩くぼくのことを明るく照らし、離れていても伝わってくる熱に驚いたものだ。だが、赤々と燃える炭火とは対照的に焼き肉屋はいつも閑散としていた。
 焼き肉屋がオープンする前、この場所にはいったい何の店があったのだろうか?思い出そうとしてもまったく思い出せない。人だかりがあった記憶もなければ、騒ぎの音を耳にした記憶もない。何年も前から何十回、何百回と通ったはずなのになんの記憶もない。焼き肉屋ができたのは、そんな場所だったのだ。
 赤々と燃える炭火は、1年を過ぎた頃に輝きを失った。ある日、店の前を通ったら看板が無くなっていた。
 それから1ヶ月ちょっと経った頃だろうか、焼き肉屋の跡地で慌ただしく人が動き回っていた。首を伸ばして覗いてみると改装工事を行っていた。
 数日後、そこには新しい焼き肉屋ができていた。
 居抜きというやつだ。前の店の機材を使い回して安価に店を開くやり方だ。店は安く開けたかもしれない。でも、ここは流行らなかった場所。いくら店主が替わろうとも、同じ焼き肉屋で成功するとは思えない。
 悲しいことにぼくの予想は当たってしまった。2軒目の焼き肉屋は、ワニの肉などの変わった肉も出す尖った焼き肉屋だったが、先代の焼き肉屋よりも短い営業期間となってしまった。この地味な街には、ワニ肉を求めるチャレンジャーはいなかったようだ。これが、約1ヶ月前のことである。
 そして、先週辺りからまたしても改装工事が始まっていた。またしても焼き肉屋ができるのだろうか?何度やってもダメな場所だと思うが、賃料が安いせいかチャレンジャーは絶えないようだ。
 そして今日、新しい店がオープンした。今度の店もやはり肉を焼いている。だが、牛や豚ではなく鳥。そう、焼鳥屋がオープンしたのだ。それも対面販売も行う焼鳥屋だ。家路を急ぎ、駐輪場へ向けて歩く人しかいない通りに出す店としては、良い判断ではなかろうか。
 三度目の正直となって、この店が流行ることを祈ってみよう。いや祈るよりも、ブラジル産としか思えない1本80円の焼き鳥を買う方がよっぽど店のためになるか。よし、今度買ってみよう。