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抜けなくなる

by 唐草 [2017/11/10]



 舌を噛んで今日で3日目になる。だいぶ治ってきて飲み食いしてもしみることはなくなった。でも、相変わらず舌先をクリップで挟まれているような違和感が残っている。きっとかさぶたのようなものができているせいで、本来の舌のしなやかさが失われているのだろう。だからピンポイントで挟まれているような違和感があるのではないかと推測している。
 夕食を食べて風呂に入って歯を磨いて、あとは寝るだけという感じでダラダラと過ごしていたときのことだった。
 急に砂粒を噛んでしまったときのようなジャリッと言う異物感が口の中を襲った。その感覚は幻でもなければ、比喩でもなかった。実際に口の中に小さな砂粒のようなものがあったのだ。貝を食べていたわけでもないし、夜中に砂場で遊んでいたわけでもない。突然、口の中に砂粒のようなものが現れたのだ。
 そんな唐突な事態に陥ったものの、ぼくはまったく慌ててはいなかった。むしろ、またやってしまったのかという自責の念に駆られているだけだった。
 これは、間違いなく歯石。ぼくは下の前歯の2本だけ歯並びがわずかにずれている。そのせいで、前歯の2本の隙間に歯石が溜まりやすい。気をつけて歯を磨いているのだけれども、先週の口内炎と今週の舌を噛んだ怪我のせいでちゃんと歯磨きができていなかったようだ。その前もちゃんと磨けていなかったのだろう。色々重なった結果、歯石ができてしまっていた。
 このまま放置しておくと歯に悪そうなので、デンタルフロスで丁寧に掃除をすることにした。歯は大切にしないとね。
 フロスを入れると糸の動きの悪さで歯間が狭くなっているのが分かる。明らかに何かに引っかかっている。たぶん歯石だと思われるものを取り除こうと力を込めた瞬間だった。フロスの糸が切れた。
 鏡を見ると前歯の隙間から糸を垂らす間抜けな面が移っていた。
 歯石と思われるものに引っかかったフロスは、接着剤で固定されているのかと思うほどに固く挟まっていた。いくら引っ張っても歯茎が痛いだけで、糸はまったく動かない。歯の隙間の糸を取り除こうと口の中に指を突っ込んでいるので、よだれがダラダラと垂れる。どう見てもヤバイ人にしか見えない。ピンチなんだけれども、間抜けな自分の姿に笑ってしまった。
 引いても何の成果がないので、新たなフロスで押すことにした。引いてダメなら押してみろの精神である。先人は素晴らしい言葉を残してくれたものである。押し込むことでどうにかフロスは動くようになった。これで腐った死体のような間抜けヅラともおさらばだ。