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読みにくい本

by 唐草 [2017/09/10]



 図書館で借りてきた本が、凝った作りをしているせいで恐ろしく読みにくい。
 ある架空の事件の資料を集めた人が独自の分析をしてレポートを遺した。その遺された資料と分析レポートに対してFBI捜査官がコメントを付けて作った事件報告書という体を成している本なのだ。これだけ読んでもサッパリ何のことだか理解できないと思う。ぼくも言葉足らずでうまく説明できていないことを痛感している。
 本を開くと古い手紙とか軍の機密資料のコピーが、目に飛び込んでくる。もちろんこれ自体が創作だ。その極秘資料などの分析結果がレポートとして書かれている。陰謀説が大好きな人々がこぞって口にする有名な事件などが取り上げられている。資料とレポートに対して、朱色で注釈や確認を入れる形をとってFBI捜査官のコメントが書かれている。事実だと確認されたという素っ気ないコメントもあれば、分析が間違っているという指摘もあったりする。
 架空の極秘資料、資料を収集した人の分析、FBI捜査官による検証という3つの要素が集まって構成された報告書の形を取ったフィクションなのである。
 この方法は、おもしろいアプローチだ。読んでいるぼく自身が捜査報告を受ける捜査官のひとりになったような気分になれる。フェイクの資料も黒塗りがあったり、極秘スタンプが押されていたり、コピーされすぎて文字が読みにくくなっていたりと演出に凝っている。新聞の切り抜きなんかも多数ある。物によっては手書きすらある(翻訳版を読んでいるので対訳が載っている)。こういった凝った演出のおかげで機密に触れているような気分が高まる。
 だが、ハッキリ言って読みにくい。
 朱色のインクで印刷された注釈が本文の本なんて読みやすいわけがない。資料によって文字の組み方も大きさも変わるので、文字を読むペースを保つことが難しい。読むためにデザインされた活字ではなくて、報告書を装った文字が読みやすいわけがない。
 試みがおもしろい事は十二分に認めるし、それに満足している。でも、読み物としては一線を越えてしまっていると言わざるを得ない。